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高血圧、糖尿病は国民病とも言えるほど身近な存在です。
日本人の2~3人に1人が高血圧、糖尿病患者と言われており、
その数は約4700万人に上ります。


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どんな運動を、どれくらいやるべき?

糖尿病患者さん(以下、患者さん)の運動療法を安全かつ効果的に指導していくためには、本連載第2回で述べたメディカルチェックを実施し、患者さんの状態を十分に把握し、その結果を踏まえた運動を処方します。

運動処方の内容は主に、

①運動の種類・生活活動(どんな運動が良いか)
②運動強度(どれくらいの強さでするのか)
③継続時間(何分間続けるのか)と実施頻度(週何回するのが良いか)
④実施時間帯(いつ行うのが良いか)

の4点から構成されます。

運動処方に基づいて患者さんは運動を実施していきますが、運動を実施する際には、低血糖の防止対策などをはじめ、安全に運動を行うための様々な注意点があり、事前の十分な指導が必要です。
そこで、連載第3回では「糖尿病治療のための具体的な運動処方の内容」と、「運動を実施する際の注意点」について触れていきます。

 

■糖尿病治療のための運動処方
①運動の種類・生活活動(どんな運動が良いか)

糖尿病の運動療法では、運動不足をいかに解消するかということが、指導の基本となります。運動の種類として、有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレー ニング)が挙げられ、いずれも2型糖尿病の血糖コントロール状態を改善させますので、両方の運動を併わせて行うことが効果的です。

●有酸素運動
有酸素運動は、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水中ウォーキングなど大きな筋肉群をリズミカルに収縮させ、一定時間持続する全身運動を指します。
気軽に実践できる有酸素運動は、歩くことです。安静にしている状態より多くのエネルギーを消費するすべての動きを「身体活動」といい、「運動」(体力の維 持と向上を目的に計画的・意図的に実施するもの)と「生活活動」(身体活動のうち運動以外のもの)との2つに分けられます。
通勤や買い物など日常生活で歩けば「生活活動」になり、健康増進を目的として歩く場合は「運動」になります。運動習慣のない患者さんでは、まずは、日常生活で歩く時間を増やすよう指導しましょう。
ウォーキング

 

●レジスタンス運動(筋力トレーニング)
レジスタンス運動は、ダンベルやチューブ、自分の体重などの負荷をかけた筋力トレーニングで、筋肉に抵抗をかけることによって、筋力の向上などを目的と して行う運動のことです。運動中は、息を止めずに主要な筋肉群を動かすトレーニングを行います。ただし、強い負荷をかけた場合には、急激な血圧の上昇を招 く恐れがあるため、注意が必要です。
チューブ運動

有酸素運動とレジスタンス運動は、以下に示すようにそれぞれ異なった効果が現れるので、組み合わせて行うよう指導しましょう。

運動の効果の比較
代謝・生理面 筋肉のエネルギー源
有酸素運動 ・有酸素運動能(心肺機能や持久力など)の向上
・インスリン感受性の改善
・脂質代謝の改善
・糖質(グルコース、グリコーゲン)
・脂質(遊離脂肪酸)
レジスタンス
運動
・筋力、筋量の増加
・基礎代謝の増加
・血圧上昇
※高血圧のある人は症状を悪化させるため注意
・糖質(グルコース、グリコーゲン)
※無酸素運動の場合

●NEAT (ニート)
また、近年ではNEAT (ニート)を増やすことも勧められています。NEATとは、「Non Exercise Activity Thermogenesis」の頭文字を取った略語で、運動ではない日常生活で消費するエネルギーのことを指します。
運動をしていない時でも、基礎代謝や日常生活の身体活動でエネルギーを消費しています。日常生活で体をこまめに動かし、NEATが増えると基礎代謝が増える傾向があり、運動をしていない時でもエネルギーを消費しやすい体になります。
日常生活での立つ、歩く、家事をする、子どもと遊ぶといった軽めの動作でも、頻度を増やすことで、1日の消費エネルギーを増やせます。電車では座らずに立つ、テレビのリモコンは手元に置かず立って取りに行くなど、NEATを増やすための指導をしましょう。

 

②運動強度(どれくらいの強さでするのか)

運動療法を安全に効果的に行うためには、運動強度の管理が重要になります。強度が弱過ぎると効果が得られず、糖尿病の改善につながりません。一方、強度 が強過ぎる運動では、心臓に負荷がかかるため、運動中に息が上がって足が止まってしまい、運動を続けることができなくなったり、突然死を招くといったリス クも高くなります。

糖尿病の運動療法では、運動の効果と安全性に配慮した適正な運動強度として「中強度」の運動が推奨されています。この中強度の運動強度というのは、最大酸素摂取量(VO2max:各個人の最も強い運動時における酸素摂取量。)では、50%前後の運動に該当します。しかし、最大酸素摂取量の測定は、すべての医療機関や施設で行えるわけではありません。また、患者さんでは十分な運動負荷がかけられず、最大酸素摂取量の測定そのものが困難な場合もあります。

そこで、最大酸素摂取量に代わる運動強度の指標として「心拍数」が用いられます。この目標心拍数(中強度の運動)を算出する場合に採用されるのが、「カルボーネン法」で、目標心拍数は、次の計算式で算出されます。

カルボーネン法の計算式

目標心拍数=(最大心拍数※-安静時心拍数)×運動強度(%)+安静時心拍数
※最大心拍数=220-年齢

実際の心拍数は、脈拍数を計測することで簡便に確認できます。脈拍は心臓の鼓動が反映されたもので、心拍とほぼ同じと捉えられています。脈拍数は、自分 の手首に指を当てて計測する方法※が一般的ですが、脈拍計などの機器を使用すると、より簡単に正確に計測することができます。

※片側の人差し指、中指、薬指の3本の指で反対側の手首の内側にある動脈を計測する。10秒間測って、その数値を6倍にした数値が1分間の脈拍数。

では、カルボーネン法を用いて、実際に患者さんを指導する際の運動時の目標心拍数(脈拍数)を、計算してみましょう。運動強度は、中強度の運動強度に相 当する50%に設定します。安静時心拍数は、朝、目覚めた時点で布団やベッドから起き上がる前に、1分間の脈拍数を計測します。

(例)50歳で、安静時心拍数が72拍/分の患者さんのカルボーネン法を用いた
目標心拍数(脈拍数)の計算方法
① 最大心拍数の推定 220-50 = 170拍/分
② 運動時の目標心拍数(脈拍数) = (170-72)×50%+72 = 121拍/分
注)心拍数を管理することを目的としていますが、実際の指導では脈拍数で代用し、心拍数=脈拍数とします。

カルボーネン法を用いると、効果的で安全な運動強度を設定できますが、実際の指導の際には、そこまでの時間がとれないという場合や、細かい数値のため患 者さんが忘れてしまう場合もあります。そこで指導の目安としては、59歳以下は120拍/分、60歳以上は100拍/分と考えれば、簡単に覚えやすく、実 践的な指導につながります。

糖尿病の運動療法における適度な脈拍数の目安
59歳以下 …… 120拍/分
60歳以上 …… 100拍/分

運動強度は、運動開始時から一気に上げると負荷が強いため、運動開始後から徐々に上げ、120拍/分または100拍/分を保ちます。この脈拍数は、感覚 的には「他人とおしゃべりしながら続けられる程度の運動」です。特に高齢者では、脈拍数の多い運動は心臓に大きく負担がかかるため、適度な脈拍数を超えな いよう注意します。

また、効果の面でも、スポーツ選手を除いた一般の人は、最大酸素摂取量の約50%の運動強度のときに、脂肪がよく燃焼するとされており、この運動強度は今まで述べてきた値と一致しています。

運動中の脈拍数は、ウォーキングであれば、足を止めて、手首に指を当てて計測する方法で確認しますが、脈拍計などの機器を使うと、運動を中断せずに脈拍数を計測することが可能です。

手首に指を当てて脈拍測定

手首に指を当てて計測する方法
脈拍計を用いて脈拍測定

脈拍計などの機器を活用する方法
【参考】
身体活動の強度の指標として、最大酸素摂取量や心拍数を紹介しましたが、これらの他に、「自覚的運動強度(ボルグ指数:RPE)」や「メッツ(MET)」も用いられています。●自覚的運動強度(ボルグ指数:RPE)は、運動強度を「非常にきつい」(RPE 20)から、安静時の最下限「非常に楽である」(RPE6)に分類したものです。糖尿病の運動療法としては、「やや楽である」(RPE11)~「ややきつ い」(RPE13)が推奨されています。

参考:日本健康運動研究所

●メッツ(MET)は、身体活動の強さを安静時の何倍に相当するかで表す単位で、座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当します。「活動時総代謝量÷安静時代謝量(座位)」で、算出されます。
健康の維持・増進には、3メッツ以上の活発な身体活動・運動が良いとされ、運動の強度が強いほどHbA1cの低下が期待されるので、やや強い強度の運動(RPE12~13、5~6メッツ程度)もリスクなどを考慮したうえで勧めましょう。

参考:公益財団法人 健康・体力づくり事業財団

 

③継続時間(何分間続けるのか)と実施頻度(週何回するのが良いか)

有酸素運動の継続時間は、「30分×1回」の運動を行った場合でも、「3分×10回」でも、ほぼ同じ効果が得られることがわかっています。
時間がとれるときは、1回10~30分間程度(体力のある方でも60分を限度として)の有酸素運動を週3~5日以上行います。例えば通勤の際、1駅手前で降りて歩いたり、買い物や犬の散歩など日常生活の中に運動を取り入れることも有効です。
まとまった時間がとれないときは、階段昇降やコピー取り、洗濯干しや掃除といった家事などで、細切れにでもいいので、意識して体を動かすことが大切です。歩数としては、1日あたり8,000~10,000歩を目指します。

レジスタンス運動は、主要な筋肉群を含んだ8~10種類のレジスタンス運動を10~15回を1セットで繰り返すことから始め、徐々に強度やセット数を増やしていき、週に2日以上行うことが推奨されています。
ダンベルやチューブ、機械を使って負荷をかけると、より効果的に行えますが、自分の体重の負荷を利用すれば、スポーツクラブなどの運動施設へ行かなくても、また、特別な道具がなくても手軽にレジスタンス運動を行うことができます。
手軽にできるものとして、ハーフスクワット、片足立ち(片手をイスにつかまり30秒程度立つ)、もも上げ、腹筋、腕立て伏せなどがあります。
これらのレジスタンス運動は、テレビを見ている間や、仕事の合間に行うこともできます。まずは、できることから開始し、慣れてきたら種類や1回当たりのセット数を増やしていきましょう。

 

④実施時間帯(いつ行うのが良いか)

糖尿病では、特に食後の急激な血糖の上昇が問題となります。そのため、食後30分~2時間の間に運動を実施することが、この食後高血糖を抑える意味で効 果的です。ただし、患者さんによっては、仕事などで、食後の運動が難しいという場合もあります。運動を継続するためには、患者さんのライフスタイルに合わ せ、最も実施しやすい時間を考慮し、指導します。

また、下記のような運動を避けたほうが良い時間帯を指導するとともに、体調が悪い日などは、無理せず運動を見合わせます。運動を開始しても運動中に気分が悪くなった場合などは、直ちに運動を中止するよう指導しましょう。

●運動を避けたほうが良い時間帯

  • 空腹時
  • 早朝(起き抜け)
  • 朝食前
  • 深夜
  • 気温が高い時間帯、低い時間帯

●運動の実施を見合わせる必要があるとき

  • 体調の悪い時や風邪など病気にかかっているとき
  • 筋肉や膝や腰など関節に痛みや違和感があるとき
  • 睡眠不足のとき
  • 二日酔いがあるとき
  • 血圧がいつもより高いとき
  • 血糖のコントロールが悪いとき
  • 天気が悪いとき、暑さや寒さが厳しいとき

●運動中に下記の症状が現れたら直ちに運動を中止する

  • 胸痛や胸部の圧迫感
  • 脈が乱れたり、動悸がする
  • 呼吸困難
  • 腹痛、吐き気、嘔吐
  • 膝や腰など関節の痛み
  • めまいがしたり、目の前が暗くなる
  • 顔面蒼白(顔色が悪い)
  • チアノーゼ

 

■運動を実施する際の注意点
①低血糖の防止対策

インスリンや経口薬で治療中の患者さんは、低血糖になる場合があるため、運動量に応じてインスリン量の調整が必要な場合もあります。運動量が多い場合、主治医と相談し、運動前のインスリンを1/2~1/3減らします。

空腹時に運動する場合は、補食をとり、もし運動中に低血糖が起こった場合は、すぐにブドウ糖や砂糖あるいはこれらの加工品、またはコーラなど清涼飲料 (加糖タイプ)を飲みます。運動時には、低血糖発作に備え、ペットシュガーなどを常に携帯するよう指導しましょう。運動前や運動後の補食には、おにぎりや クッキーなどの血糖上昇効果が持続する食品が勧められます。
最近は、低カロリーやゼロカロリーの甘味料を利用した飲料が多くなっています。これらの飲料は、低血糖対策には役に立ちませんので、そのことも合わせて指導しましょう。

②水分補給

運動する際は、脱水症状を防ぐため、適宜水分補給が必要です。(財)日本体育協会では、水分補給の目安として、運動前にコップ1~2杯 (250~500mL)、その後、1時間ごとに500~1,000mL、3時間以上では塩分の補給を行うことを推奨しています。日常の運動では、水や日本 茶などで水分補給を行えば十分です。

夏や蒸し暑い室内など、汗を多くかく環境で長時間運動を行う場合は、電解質の飲料での補給が勧められます。糖質濃度が3~8%の飲料は糖質が含まれてい ない場合より吸収率が大きいです。しかし、スポーツドリンクは高カロリーのため、患者さんは多飲すると、血糖コントロールが乱れる場合があることに注意が 必要です。

③準備運動と整理運動

事故の予防と運動後の疲労を軽減するために、準備運動と整理運動を行うことが大切です。それぞれ5~10分を目安に行います。

準備運動は、体の多くの機能を安静から運動をする状態に導くための運動で、体を温め、ほぐすとともに、血液の循環を促進させ、運動中のケガや事故の防止に役立ちます。
整理運動は、運動後に血圧や心拍数を徐々に下げることを目的とした運動です。運動終了後も引き続き軽い運動を続けることで、筋肉のポンプ作用が働き続け、正常な血液循環が保たれます。

参考:糖尿病患者さんの運動療法情報ファイル 実技編:やってみよう!

 

④膝や腰など運動器の障害防止

運動による効果は様々ありますが、急に行うと膝や腰などに障害を起こす場合もあります。これまで運動習慣のない患者さんが運動を開始する場合は、ウォー キングが第一選択です。その後、少しずつ運動強度を高めていくようにしましょう。運動量と強度は、翌日まで筋肉痛や疲労を残さない程度が目安です。

運動時や運動後、膝や腰などの関節に異常を感じた場合は、すぐに運動を中止します。痛みを我慢したまま運動を続けていると、変形性膝関節症や腰痛など、 様々な整形外科的疾患を引き起こす場合があります。日頃から、ストレッチや筋力トレーニングを行っていると、筋肉や関節の柔軟性と可動性が高まり、運動器 の障害防止につながります。
特に肥満がある人や高齢者では、運動により膝や腰などに障害を起こすリスクが高いので、関節に過度の負担がかからないように配慮した運動療法が必要です。自転車エルゴメータや水中ウォーキングなどの運動から開始するのも良い方法です。

⑤運動のための靴選び・フットケア

足に合わない靴は、靴ずれを起こし、ときには痛みで、しばらく運動の中止が必要な場合もあります。神経障害が進行している患者さんでは、胼胝(べんち、 たこ)・鶏眼(けいがん、うおのめ)ができると、潰瘍に進行し、さらに悪化して壊疽に至る場合もあります。また足に傷ができていても気付かない場合もあり ますので自分の目でチェックするよう指導しましょう。膝や足関節への負担を避けるためにも、運動を行う際には足に合った靴、できればスポーツシューズが勧 められます。
また、足の傷からの感染を防ぐため、素足で靴を履くことは避け、必ず綿の靴下を着用します。出血など足の皮膚の異常を見逃さないために、なるべく白色の靴下を選びます。

シューズ選びの注意点

運動の前後には、糖尿病足病変の予防のためにも、以下のような点で足の観察を行うことが大切です。

  • 靴の中に異物が入っていないか
  • 靴下に血液や浸出液などの付着がないか
  • かゆみや痛みなどの違和感がないか
  • 足の皮膚に発赤、靴ずれ、切創、水疱、乾燥に伴う亀裂、白癬・胼胝・鶏眼など異常がないか
  • 足の皮膚温、皮膚の色に変化を生じていないか
  • 爪が伸びすぎていないか、爪の異常(巻き爪、爪白癬など)がないか
  • 足全体の浮腫や足趾も含めて変形を生じていないか
参考:糖尿病セミナー 足の手入れ

 

まとめ

患者さんのための運動処方の内容は、 ■ 運動の種類・生活活動、■ 運動強度、■ 継続時間と実施頻度、■ 実施時間帯 の 面から考えることが必要です。メディカルチェックの結果を踏まえ、患者さんの症状や年齢、体力などの状態に応じて、適切な処方を行います。その中で安全か つ効果的な運動強度の設定が求められ、その指標としては、誰でも簡単に測定できる脈拍数を用いることが勧められます。
また、運動によって生じるリスクをできる限り避けるために、運動を行ううえでの注意点を詳しく指導することも大切です。特に、運動中の低血糖や事故などの防止には、患者さん自身が様々な注意点を守って実施する必要があります。
患者さんのライフスタイルや運動に対する理解度、意欲などにも配慮したうえで、個々の患者さんに合わせた継続ができる、生活習慣の一部となるような運動指導が求められます。

 

出典:糖尿病ネットワーク